「毎年この時期になると、領収書の山を前に手が止まる」「経費になるのかどうかが分からず、調べているうちに一日が終わる」——個人事業主やフリーランスにとって、確定申告は毎年の重荷です。
AIはこの負担をかなり軽くできます。ただし使ってよい場面と、絶対に頼ってはいけない場面がはっきり分かれるのがこの分野の特徴です。ここを間違えると、間違った申告をすることになります。
この記事では、何をAIに任せてよいのかの線引きから始めて、準備を楽にする具体的な使い方を紹介します。
最初に線を引く|AIに聞いてはいけないこと
税額の計算と最終判断は任せない
この記事でいちばん重要な部分です。税額、控除の可否、申告書に書く数字。これらをAIに決めさせてはいけません。AIは条文の要件をもっともらしく間違えます。そして申告の責任は、すべて自分に帰ってきます。
制度の数値をAIに聞かない
控除額、税率、提出期限、適用要件。これらは必ず国税庁の資料か、税務署か、税理士に確認してください。AIが自信を持って答えた数字が古い、あるいは存在しない、という事故が実際に起きます。仕組みはAIのハルシネーションを見抜く方法で解説しています。
ではAIは何に使うのか
使いどころは、判断ではなく整理と準備です。
- 領収書やメモを、分類しやすい形に整える
- 何を調べるべきかの論点を洗い出す
- 税理士や税務署に聞くための質問文を作る
- 去年との違いを見つける
- 来年のための記録の仕組みを作る
この範囲なら、安全に大きな時間短縮ができます。
使い方1|経費の論点を洗い出す
答えではなく「確認すべき点」を出させる
「これは経費になりますか」と聞いてはいけません。「経費にできるか判断するために、何を確認すればよいか」と聞いてください。同じ支出でも、事業との関連の度合いで結論が変わるからです。
【プロンプト】
「ある支出について、経費計上を検討する際の確認事項を整理してください。
【支出の内容】
(例:自宅の一室を仕事場にしている場合の家賃)
【条件】
・経費にできるかどうかの結論は書かない
・判断のために確認すべき点を、質問の形で挙げる
・按分が必要な場合、何を基準に按分するかの考え方の種類を挙げる
・具体的な割合や金額、控除額は書かない
・税務署や税理士に確認すべき点を明示する」
この形なら安全に使える
結論を出させないので、誤情報を信じてしまう危険がありません。それでいて、自分では思いつかなかった確認項目が出てきます。調べる時間そのものが大きく減ります。
使い方2|記録を整える
メモの断片を仕訳しやすい形に
手元にあるのは、日付と金額と用途が入り混じったメモです。これを表の形に整える作業は、AIの得意分野です。
【プロンプト】
「支出のメモを、帳簿に転記しやすい表に整理してください。
【メモ】
(例:3/4 打合せカフェ 1200円 A社さん 3/8 書籍2冊 4400円 資料用 3/15 電車 往復1680円 B社訪問)
【条件】
・日付、金額、内容、相手先の列を作る
・勘定科目の候補は「案」として列を分けて示し、確定はしない
・メモから読み取れない情報は空欄にし、推測で埋めない
・金額の合計も出す
・日付順に並べる」
「推測で埋めない」が絶対条件
この指示がないと、AIは空欄を自然な内容で補います。帳簿に架空の記録が混ざれば、それは虚偽記載です。必ず入れてください。
表計算ソフトへ流す
整えた表は、そのまま表計算ソフトに貼り付けられます。関数の作成はChatGPTでExcel関数・マクロを作成する方法、連携はChatGPT×Googleスプレッドシート・Notion連携術が参考になります。
使い方3|聞くための質問文を作る
税務署は「何を聞けばいいか」で差が出る
税務署の相談窓口も税理士も、質問が漠然としていると答えようがありません。状況を整理した質問文を用意していくだけで、得られる回答の質が変わります。
【プロンプト】
「税務署の相談窓口で聞くための質問文を作成してください。
【状況】
・事業の内容:(例:個人でWeb制作を受託)
・今年からの変化:(例:自宅の一部を作業場にした)
・迷っていること:(例:家賃と光熱費の扱い)
【条件】
・前提となる状況を先に簡潔に述べる形にする
・質問は3つ以内に絞る
・はい、いいえで終わらない聞き方にする
・持参すべき資料があれば、それも質問に含める
・答えを想定して書かない」
持参物まで聞くのが効く
相談は一度で終わらせたいものです。「この相談に必要な資料は何ですか」を最初に聞くだけで、二度手間が防げます。
使い方4|去年との違いを見つける
変化があった年ほど間違えやすい
売上が大きく動いた、新しい取引先が増えた、設備を買った。去年と同じやり方が通用しない箇所を洗い出す用途で使えます。
数字を渡して差分だけ出させる
去年と今年の集計を渡し、「大きく変わっている項目と、その理由として考えられる確認点」を挙げさせます。分析の方法はChatGPTでデータ分析する方法が使えます。
使い方5|来年のための仕組みを作る
毎年苦しむのは記録がないから
申告が大変なのは、1年分をまとめてやるからです。月に一度、30分だけ整理する仕組みを作れば、来年は劇的に楽になります。
自分用のルールを1枚にする
何をどう記録するかを決めて紙にします。迷う時間がなくなるのが最大の効果です。家計と事業を分ける考え方はAIで家計管理・節約する方法も参考になります。
会計ソフトは使ったほうがいい
AIは会計ソフトの代わりにはなりません。計算と帳簿の作成はソフトに任せ、AIは整理と準備に使うという分担が現実的です。
申告前の最終チェックに使う
抜けを探すのは得意分野
数字の正しさは判断できませんが、提出前に見落としがちな項目を並べさせるのは有効です。人は自分が忘れていることには気づけないので、外から一覧を出してもらう価値があります。
【プロンプト】
「確定申告の提出前に、自分で確認すべき項目の一覧を作成してください。
【状況】
・事業の内容:(例:個人でWeb制作を受託、青色申告)
・今年あった変化:(例:初めて外注先に支払いをした)
【条件】
・確認すべき項目をチェックリストの形で挙げる
・各項目は、自分の手元の資料で確認できる形にする
・控除額や税率などの数値は書かない
・判断が必要な項目には「要相談」と付ける
・提出期限や制度の要件は書かない」
「要相談」が付いた項目が本題
このリストで要相談と付いた項目こそが、税務署や税理士に持っていくべき論点です。全部を相談する必要はなく、ここに絞れば相談も短く済みます。
数値を書かせない指示を毎回入れる
チェックリストを作らせるときも、控除額や期限を書かせない条件は外さないでください。親切心で具体的な数字を添えてくることがあり、それを信じてしまうのが最も危険な事故の形です。
やってはいけないこと
マイナンバーや口座情報を入力する
絶対に入力しないでください。マイナンバー、口座番号、取引先の口座情報。これらは一度入力すれば取り返しがつきません。線引きは生成AIの情報漏洩リスクと社内利用ルールの作り方で整理しています。
取引先の名前と金額をそのまま入れる
守秘義務がある場合があります。「A社」「B社」に置き換えれば、整理の用途には十分です。
AIの回答を根拠に申告する
繰り返しになりますが、これが最大の危険です。申告の内容に責任を持つのは自分です。AIは「調べる前の整理」までと決めてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 青色と白色、どちらがいいか聞いてもいいですか?
制度の違いの概要を理解する目的なら使えますが、自分がどちらを選ぶべきかの判断は、税務署か税理士に相談してください。事業の状況によって答えが変わります。
Q. 領収書の写真を読み取らせられますか?
技術的には可能です。ただし金額の読み取り誤りが起きるので、必ず原本と突き合わせてください。方法はChatGPTの画像認識の使い方をご覧ください。取引先名が写っている点にも注意が必要です。
Q. 副業の申告にも使えますか?
使えます。考え方は同じで、整理と質問の準備に限って使ってください。副業全般はAI副業の始め方が参考になります。
Q. 税理士に頼むべきか判断できますか?
判断材料の整理には使えます。売上規模、取引の複雑さ、かけられる時間を書き出させると考えやすくなります。フリーランスの実務はフリーランス必見のAIプロンプト活用術をご覧ください。
Q. 経理の仕事全般にも応用できますか?
できます。報告書や社内通知の作成は特に効果が出ます。経理・総務のChatGPT活用術で解説しています。
まとめ
この記事では、確定申告の準備でのAI活用法を解説しました。ポイントを整理します。
- 税額と控除の判断は絶対に任せない。制度の数値も聞かない
- 使うのは整理と、調べるべき論点の洗い出しまで
- 経費は「なりますか」ではなく「何を確認すべきか」と聞く
- 記録の整理では「推測で埋めない」を必ず条件に入れる
- マイナンバーと口座情報は絶対に入力しない
まずは手元のメモを1か月分、表に整理させてみてください。それだけで、今年の作業量が見えてきます。
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