「就業規則が10年前のまま更新されていない」「社内ルールを作りたいが、何から書けばいいか分からない」——人事や総務の担当者、あるいは社長が兼務している職場でよく聞く悩みです。
規程づくりは、専門知識が要るうえに時間もかかります。ただし作業の大半は「たたき台を作る」「抜けを探す」「読める文章に直す」の3つで、ここはAIが確実に短縮できます。
この記事では、規程を整備する手順をAIで進める方法と、専門家に任せるべき線引きを解説します。
最初に線を引く|任せてよい範囲
法令の要件はAIに聞かない
いちばん重要な点です。労働基準法の要件、届出の義務、記載が必須の事項。これらをAIに確認してはいけません。もっともらしく間違えたものを信じると、規程そのものが無効になりかねません。
最終確認は社会保険労務士か労働基準監督署
就業規則は、届け出が必要な場合があり、内容によっては従業員との合意も要ります。AIで作れるのは、専門家に見てもらう前のたたき台までです。ここを守れば、費用も時間も大きく節約できます。
AIが効くのはこの3つ
- ゼロから書き出せない状態を抜け出す(たたき台)
- 自分では気づかない抜けを指摘させる
- 難しい条文を、従業員が読める文章に直す
専門家に渡すものの質が上がるので、相談の回数と時間そのものが減ります。
手順1|今ある規程を棚卸しする
何が無いかを先に把握する
作り始める前に、現状を確認します。そもそも何の規程が必要なのか分からない、という状態が最初の壁だからです。
【プロンプト】
「社内規程の棚卸しを手伝ってください。
【会社の状況】
・業種と規模:(例:従業員15名の建設会社)
・今ある規程:(例:就業規則のみ、10年前に作成)
・最近あった変化:(例:テレワークを一部導入、パート採用を開始)
【条件】
・検討したほうがよい規程の種類を一覧にする
・それぞれ、なぜ必要かを1行で書く
・優先度の高い順に並べる
・法令上の要件や届出の要否には触れない
・「専門家に確認すべき点」を最後にまとめる」
法令の話をさせない条件が要る
この条件を外すと、AIは義務や罰則について書き始めます。そこは信用できない領域なので、最初から書かせないのが安全です。
手順2|たたき台を作る
自社の実態から書く
よそから持ってきた規程をそのまま使うと、実態と合わずに形骸化します。今どう運用しているかを言葉にして、それを規程の形にするのが正しい順番です。
【プロンプト】
「社内規程のたたき台を作成してください。
【作りたい規程】
(例:テレワーク勤務に関する規程)
【今の運用】
(例:週2日まで在宅可、始業終業はチャットで報告、通信費は月額固定で支給したい)
【条件】
・現在の運用を条文の形にすることに徹する
・決まっていない事項は、条文にせず「要検討」として列挙する
・法令の条番号や、届出の要否は書かない
・罰則や懲戒に関する内容は含めない
・専門用語には、括弧書きで平易な説明を添える」
「要検討」の一覧が本当の成果物
たたき台そのものより、決めていなかった論点が一覧で出てくることのほうが価値があります。ここを社内で詰めてから専門家に相談すれば、話が早く進みます。
懲戒は必ず専門家と作る
懲戒や解雇に関する条項は、書き方を誤ると使えません。この部分だけはAIに書かせず、最初から専門家に相談してください。法務文書全般の扱いはChatGPTで契約書・利用規約のドラフトを作成する方法で整理しています。
手順3|抜けを指摘させる
作った本人には抜けが見えない
これはAIの得意分野です。「この規程で想定されていない状況を挙げて」と聞くと、考えていなかった場面が出てきます。
【プロンプト】
「規程のたたき台を点検してください。
【規程】
(作成した文面を貼り付け)
【条件】
・この規程では判断できない状況を挙げる
・解釈が分かれそうな表現を指摘する
・条文どうしで矛盾している箇所があれば示す
・法令に適合しているかの判断はしない
・指摘ごとに、どう直すかの案は書かず、論点だけ示す」
適合性の判断をさせない
「この規程は法律上問題ありません」という回答が返ってきても、その判断には何の裏づけもありません。点検させるのは、あくまで内部の整合性と表現の曖昧さだけです。
手順4|従業員が読める文章にする
読まれない規程は無いのと同じ
規程がある職場でも、内容を知っている従業員はほとんどいません。正式な条文とは別に、読んで分かる説明版を作ると定着します。
【プロンプト】
「規程の内容を、従業員向けの説明文に書き直してください。
【規程】
(条文を貼り付け)
【条件】
・条文の意味を変えずに、日常の言葉に直す
・「〜しなければならない」を、何をすればよいかの形にする
・よくある疑問を想定し、質問と回答の形で5つ添える
・原文の条番号を、各項目に対応づけて残す
・元の条文にない義務や権利を追加しない」
条番号を残すのが要点
説明版と正式版が食い違ったとき、どこを見れば原文が分かるかを残しておくと混乱しません。文章を整える方法はChatGPTで文章校正・リライトする方法が参考になります。
手順5|社内に周知する
配って終わりにしない
周知は、規程が効力を持つための条件でもあります。いつ、どう伝えたかを記録に残してください。
説明会の資料を作る
研修資料の形にすると理解が進みます。作り方はAIで社内研修・教育資料を作成する方法で解説しています。
質問が来る前提で備える
想定質問と回答を先に用意しておくと、担当者の負担が減ります。蓄積の仕組みはAIで社内FAQ・ナレッジベースを構築する方法、通知文の作成はChatGPTでビジネスメールを作成する方法が使えます。
生成AIの利用ルールを作る
規程が無いまま使われているのが実態
いま多くの職場で、ルールが決まらないうちに従業員が個人の判断でAIを使っています。禁止しても隠れて使われるだけなので、使ってよい範囲を決めるほうが安全です。この規程づくりにAI自身を使えます。
決めるべきは5項目だけ
細かく書くと守られません。入力してよい情報、入力してはいけない情報、使ってよい業務、出力の確認義務、相談先。この5つで足ります。
【プロンプト】
「生成AIの社内利用ルールのたたき台を作成してください。
【会社の状況】
・業種と規模:(例:従業員15名の建設会社)
・想定する使い方:(例:日報、メール、手順書の下書き)
・扱う機密情報:(例:発注元の図面、従業員の個人情報)
【条件】
・入力してよい情報と、してはいけない情報を具体例で示す
・全体をA4で1枚に収まる分量にする
・禁止事項ばかりにせず、使ってよい業務も明示する
・出力を確認する責任が誰にあるかを明記する
・法令の条番号や罰則には触れない」
1枚に収めるのが定着の条件
何ページもある規程は読まれません。休憩室に貼れる1枚に収めることを最優先にしてください。詳しい作り方は生成AIの情報漏洩リスクと社内利用ルールの作り方で解説しています。
やってはいけないこと
他社の規程をそのまま入力して真似る
入手した他社の規程には著作物性がある場合があり、そもそも自社の実態と合いません。参考にするなら構成だけにとどめてください。
従業員の個人情報を入力する
個別の事案を相談するとき、氏名や部署をそのまま入れないでください。「勤続3年の正社員」程度まで抽象化すれば足ります。線引きは生成AIの情報漏洩リスクと社内利用ルールの作り方で整理しています。
AIの回答を根拠に運用を決める
「AIがこう言ったので」は、労使のトラブルでは何の説明にもなりません。根拠は必ず条文か専門家の助言に置いてください。誤情報の見抜き方はAIのハルシネーションを見抜く方法をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 社労士に頼まずAIだけで作れますか?
おすすめしません。たたき台をAIで作り、確認を専門家に依頼するのが最も費用対効果が高い進め方です。ゼロから依頼するより、相談時間が短くなります。
Q. 従業員が数名でも規程は必要ですか?
必要性は人数や状況で変わります。この判断こそ専門家に確認すべき部分です。AIには「確認すべき点の整理」だけを任せてください。
Q. 古い規程の更新にも使えますか?
使えます。現行の条文を渡し、「今の働き方と合っていない箇所を指摘して」と聞く使い方が有効です。実態とのズレは自社にしか分からないので、そこは補ってください。
Q. 採用や評価のルールにも応用できますか?
できます。人事関連の実務は人事・採用担当のAI活用法、手順の文書化はAIでマニュアル・業務手順書を作成する方法が参考になります。
Q. 小さな会社でも意味がありますか?
あります。専任の担当者がいない会社ほど、たたき台づくりの負担が重いからです。進め方は中小企業・個人店のAI活用法で解説しています。
まとめ
この記事では、AIを使った就業規則・社内規程の整備を解説しました。ポイントを整理します。
- 法令の要件と適合性の判断は、AIに聞かない
- 作れるのは専門家に見てもらう前のたたき台まで
- 他社の規程を真似ず、自社の今の運用を条文の形にする
- 成果物の本体は「要検討」として出てくる論点の一覧
- 正式な条文とは別に従業員が読める説明版を作る
まずは今ある規程を1つ渡して、想定されていない状況を挙げさせてみてください。相談すべき論点がその場で見えてきます。
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